Peppino2007-04-10


匂いのエロティシズム (集英社新書)

匂いのエロティシズム (集英社新書)

香水、フェロモン、体臭という三つの匂いを話の中心にすえて性という営みにおける匂いの意義や役割を理解するための端初を開くというのが著者の意図である。昨今の視覚偏重な価値判断の世の中において、嗅覚の重要性や魅力がもっと語られてもいいのでは。。と思っていたから手にとってしまった。香水、フェロモン→○、体臭→×という浅はかな匂いフェチだったので、自分の匂いに対する狭義な態度に反省しました。笑


第二章のエロスの進化論で、一般的な動物では匂いが排卵期兆候となることがあるが、人間の場合そもそも進化の過程で排卵期兆候を隠蔽し、発情を通年化させた種であることが定説となっており、それに至る進化の道筋に対する説をいくつかとりあげている。
その中で匂いを手がかりに人類進化のシナリオを描いたストッダートは、人類の祖先の排卵期兆候を生殖器の匂いと仮定し、それが群居、狩猟、核家族といった新たな社会構造を獲得していく過程で、そうした匂いへの抑制が働き、匂いの魅力が生殖器から腋の下へ移ったものと考えた。このときストッダートは腋臭が排卵期の兆候としての機能を担っていたとは言及してないのだが、実は女性の腋の汗成分が月経周期とともに変動することや、女性の腋の匂い成分が他の女性の月経周期に影響を与えることが知られているわけで、もし腋臭が排卵期兆候をかつて示していたし、今も実は排卵期に特有の匂いを発し続けているとしたら、それは「排卵期兆候の隠蔽」ではなく、「嗅覚鈍化の過程」である。というのが筆者の主張である。
その過程には当然進化の力が働いたであろう。つまり、匂いを嗅ぎつけられなくなったオスはタイミングよく交尾する点では劣るが、嗅覚を鈍化させたことで、タイミングよい交尾よりはるかに大きな利益を得ていたであろうということだ。では、嗅覚の鈍化はどんな利益をもたらしたのか。。。という話の流れですね。ドキドキ。


人間の性行為ははたして本能行動なのか、むしろ「人間化」されたものなのかという議論が面白いのは、例えば女性のヌード写真に興奮するのはヌード写真の持つエロティックな記号性(?)がすでに存在するからで、考え方によっては人類は本来、性的に無能で性行為に及ぶために性やエロスに対する幻想の体系を営々と積み上げてきたとも見れる。この幻想がともすれば視覚的な話で議論されがちだけど、自分は嗅覚も同じくらい重要だろうと思い続けている。と、この本を読んでクリアになった。ただこの本の後半で登場するラバリストやオゾラグニア、ミゾフィリア、ネクロフィリアほどではもちろんないからキンゼイレポートの基準によると、フェティシズムレベル1でしょう(4まである)。

最近、テレビCMでも匂いを武器に宣伝してくる商品が増えてますね。